よくある質問
一度した相続放棄は取り消せますか?
相続放棄は、一度すると撤回はできないとされています(民法919条1項)。
制度として認められているのは、相続放棄の取消です。
法律では、民法の規定によって取消ができる場合には、相続放棄も取消ができるとされています(919条2項)。
取消をするためには、相続放棄と同じように、家庭裁判所に申述しないといけません。受理されることで、効果が生じます。
どんなときに取消ができる?
民法で認められたときに限られますので、自分の都合が悪かったから取り消したいという主張は認められません。
次のような場合に取消ができます。
- 未成年者が法定代理人の同意をもらわずにした相続放棄
- 被後見人が自分でした相続放棄
- 被保佐人が保佐人の同意をもらわずにした相続放棄
- 詐欺または強迫によってした相続放棄
- 後見監督人がある場合、後見人がその同意を得ずに成年後見人を代理してした相続放棄等
つまり、詐欺・強迫以外は、相続放棄をできるだけの立場にないのにしてしまった、というケースです。
被後見人、被保佐人、未成年者以外の人は、詐欺または強迫による取消だけしかできないことになります。
詐欺や強迫の証明ができるかどうかが、ポイントになります。
この取消の審判は、全国でも年間100件前後しか申し立てられていない手続です。
いつまで取消ができる?
相続放棄の取消は、追認をすることができる時から6カ月以内にしないといけません。
また、相続放棄の時から10年間を経過したときもできなくなります。
取消を認めた裁判例
東京高決昭和27年7月22日。
前述のように抗告人等とともに亡弥次郎の共同相続人となつたが、自己に子女が多くその生計に余裕が乏しいところから、被相続人の遺産を独占しようと企て、真実抗告人等に財産を分与する意思がないのにもかかわらず、その遺産の総額及び分与すべき財産を明示せず、ただ抗告人等にむいて相続放棄をなし克己において遺産を単独で相続したうえは、抗告人等に対しその自立しうるだけの財産を必ず分与すべきにつき、相続放棄の申述をせられたい旨申向け、同人等を欺罔し、抗告人等をして前述のように原裁判所に相続放棄の申述をなさしめたことが認められる。そうだとすれば抗告人等の右相続放棄の申述は、その真意に出でたものではあるが第三者たる克己の欺罔によつて錯誤に陥り、その意思表示をなしたものというべきであるから、抗告人等は詐欺を理由としてこれが取消をなしうること勿論である。もつとも相続放棄の申述は単独行為であつて、民法は相手方のない意思表示につき第三者が詐欺を行つた場合については特に規定するところがないけれども、第三者の詐欺による意思表示も一種の詐欺による意思表示に外ならないから民法第九十六条第一項の適用があるものといわなければならない。
相続放棄の無効は?
相続放棄の取消ではなく、無効について、取消しと同じように家庭裁判所に対して申述できないか聞かれることがありますが、難しいとされています。
無効確認のようなものを家庭裁判所でしてくれる制度はありません。
別途、民事訴訟等で争うことになります。
たとえば、東京高決昭和29年5月7日。
相手方が本件取消申立において主張するところは、前記のとおり本件相続放棄の申述書が偽造文書であって相手方の関知しないものであるというのであるから本件相続放棄の当然無効を主張しているものというべく、このような場合、民法第919条第2項の取消に準じ家庭裁判所に対しさきに受理せられた相続放棄の申述受理の審判の取消を求めることは、同条が相続の放棄は多くの人の利害に関係するところであるから相続人が一度これをした以上これを取り消すことができないこととし唯同条第2項の場合に限り取り消すことを認めた法意にかんがみ,これをすることができないものと解するを相当とすべく、もし相手方がこのような意味で本件取消の申立をなしたとすれば、それは不適法であって許すことができないものといわなければならぬ。
偽造で無効などという主張は、取消審判ではダメだということです。
福岡高決平成16年11月30日。
続放棄の無効事由を主張して、家庭裁判所にその相続放棄の取消しの申述の受理を求めることができないと解しても、相続放棄に法律上無効原因があるとしてその無効を主張する利益がある者は、別途訴訟でそれを主張して争う途が用意されているのであるから、同人に、実体法上も、手続法上も、看過すべからざる格別の不利益をもたらすものではない。
相続放棄の無効については、別途、民事訴訟で争えるので問題ないという内容です。
相続放棄の取消申述が受理された場合の効果
相続放棄が受理された場合、家庭裁判所では、受理された証明書を出してもらえます。
さらに、取消が受理された場合、この受理証明書の交付の際に、取消の申述が受理されているとい注意書きを付記するなどの取扱が望ましいと通達されています。
なお、家庭裁判所で取消が受理されたからといって、絶対的に取り消されるものでもありません。相続放棄でもそうですが、家庭裁判所で受理された後、民事訴訟などで、その有効性が争われることはあります。
家庭裁判所における取消の受理は、形式的な審査のため、真に取消事由が存在するか否かについてまで審理できないとされています。
本格的な紛争では、家庭裁判所での受理が第一段階、その後の民事訴訟が第二段階と考えた方が良いかもしれません。
また、相続放棄によって、登記が移転されている場合もあります。
他の相続人など単独所有名義に移転登記された不動産については、放棄した相続人のために相続登記がなされることになります。方法としては「相続放棄取消」を登記原因とする更正登記によるべきとされています。
ジン法律事務所弁護士法人では、相続放棄の取消申述も取り扱いがありますので、こちらをご希望の方はご相談ください。