よくある質問
Q.特別縁故者とは?
相続人が誰もいないことが確定した場合、被相続人と特別の縁故があった人は、財産が残っていれば分与を受けられる可能性があります。
それが特別縁故者の制度です。
3回の公告により申立が可能
相続人不存在の手続で3回の公告がされ、最後の相続人捜索の公告の6か月以上の期間経過後も、相続人がいないときは、相続人も知れなかった相続債権者も除斥されます。
法的には、これにより相続人の不存在が確定します。
この後、特別縁故者は残った相続財産の分与請求ができます。
家庭裁判所は、相当と認めるときは、特別縁故者に対して、清算後の相続財産の全部又は一部を与えることができます。
特別縁故者とは
特別縁故者とは、被相続人と特別の縁故があった人です。
生計を同じにしていた人、被相続人の療養看護に努めた人、などが含まれます。
条文上は、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3)とされています。
内縁の配偶者、事実上の養子、未認知の嫡出子がこの制度を使うことも多いです。
このような人に相続財産を帰属させた方が、国庫に帰属させるより良いだろうという価値判断のもと作られた制度です。
特別縁故者にあたるかどうかは、諸要素で決まることになりますが、基準を示した裁判例もあります。
大阪高決昭和44年12月24日。
現実に遺産分与を許すべきかどうか、分与を許すとしてその額をいかに定めるかは一に家庭裁判所の裁量に委され、家庭裁判所は被相続人の意思を忖度、尊重し、被相続人と当該縁故者の自然的血族関係の有無、法的血族関係に準ずる内縁関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度その他諸般の事情をしんしやくしてこれをなすべきである。そうして自然的血族関係が認められる場合には、そのこと自体、切り離すことのできない因縁であつて、縁故関係は相当濃いものと認めるのが相当であり、具体的実質的な縁故の有無のみにより決すべきではないと解される。したがつて特別縁故者が多数存在する場合には、諸般の事情を考慮してそれが特別縁故者と認められる限りそれらの者全員に対し分与が許されたとしてもそれはやむを得ないとしなければならない。
生計同一者と特別縁故者
特別縁故者として例示されている「被相続人と生計を同じくしていた者」は、内縁の配偶者や事実上の養子などが多いです。
特別縁故者制度が作られた趣旨の一つに、内縁の配偶者の保護という点があったと言われています。
遺言もないようなケースで内縁の配偶者を保護するためには、特別縁故者の規定によることになります。
事実上の養子とは、法的に養子縁組はしていないものの、事実的には養子のような家族関係にあったものが当てはまります。
また、他に相続人がいない場合には、長男の妻という立場で特別縁故者と認められることもあります。
それ以外に、相続権をもたない親族が認定されることも多く、叔父叔母が認められることもあります。
叔母が特別縁故者と認定された事例。
大阪家審昭和39年3月28日。
申立人はAの叔母(父一郎の妹)であるが、Aが上記のように毋たけを昭和一七年に失つて孤独の身となつたため、年少の同人の身の廻りを世話し南田家の家計を維持する必要もあつて、親族と協議の上、先ず当時独身でいた南田B(申立人の妹でAの叔母に当る)を実家であるAの許に帰らせた。Bは、実家に戻つて後Aと生活を共にし、病弱だつたAの身の廻りをはじめ家事万端を処理してきたが、B自身も元来病弱であつたため、南田家の家計の維持や家事の処理にも困難を来たしたので、同一八年頃寡婦であつた申立人も実家へもどり、ABと同居して生活するに至つた。
(3)Aの身の廻りの世話や南田家の家事万端は、上記のように、Bが元気な間は、同人が主としてこれ身担当していたが、Bが病気で弱つて以後殊に同二二年六月二二日同人死亡後は、もつぱら申立人がこれを処理してきたものである。ところで南田家の生活は、Aが専門教育を受けながら病気のため就職しないで長期間にわたつて自宅療養をつづけてきたため、療養費その他で生活費もかさむ一方、約一町の所有田畑の大部分が小作地であつた関係上、余裕あるものではなかつた。そこで申立人は、小作田の管理に当るとともに、小作田のうち返還を受けた約二反を自作し、また内職などにも努め、南田家の中心となつてその家計を維持してきたものである。
(4)Aは、上記のように病気のため自宅療養をつづけなければならなかつたし、両親も兄弟もないところから、叔母であるBや申立人を愛慕し、B生存中がBを、B死亡後は申立人を、実の親のように頼り、Bや申立人も、また実の子に対するように片時も離れずAの身の廻りの世話や療養看護に努めてきたが、Aは申立人らの療養看護の効なく同二三年九月一六日に死亡した。同人死亡に際しては、申立人が喪主となつてその葬儀を主宰し、また死亡後の法要等をつとめてきたし、今後も申立人において同人のみならず南田家の祖先の法要供養等をつづけるものである。
(5)申立人とAとの親族関係や共同生活の実情をよく知つている近隣の者も、近しい親族の者も、申立人とAとが実の親子のようにして生活してきたこと、申立人が親身になつてAの療養看護に努めたこと、申立人が文字通り南田家の中心として全財産を涜理し家計を維持してきたことなどから、Aの遺産は全部申立人に受け継がせるのが当然である、と考えている。
(6)申立人は、Aの死後も引きつづいてその相続財産である家屋に、Aのいとこである南田松子の家族とともに居住して、別紙目録に記載の遺産を管理し、そのうち(7)の一畝七歩、(9)の七畝二八歩、(10)の四畝一二歩を自作し、その余の農地はA、B、C、D等に小作させている。なお申立人は、上記自作田の外、南田B名義の相続財産のうち門真下馬伏○○○○○○○○番の六畝二四歩と同所○○○○○○○番の八畝の一部約一畝一五歩を自作している。
上記認定の実情によつて明らかな申立人と被相続人Aとの特に親密な親族関係、生活状況、療養看護の実情からみて、申立人が、被相続人と生活を同じくしかつ療養看護に努めてきた者として、被相続人の特別縁故者に該当すること明らかである。
療養看護者と特別縁故者
「被相続人の療養看護に努めた者」も特別縁故者になりえます。
このような療養看護をしていた人は、被相続人と生計を同一にしていることも多いです。
親族のような関係者であることの方が多いですが、親族関係になくても認められることはあります。
被相続人に雇用されていた家政婦や、担当していた看護師が、療養看護をしていることもあるでしょうが、職業として看護していた場合、報酬を得ていたはずであることから、特別縁故者としては認められにくいです。
神戸家審昭和51年4月24日など、特別縁故者の認定をしている裁判例では、報酬以上の貢献をしていることが必要とされています。
「申立人は被相続人から正当な報酬を受けて同人の看護に努めていたものであることが認められるが、付添婦、看護婦などして正当な報酬を得て稼働していた者は特別の事情がない限りは民法九五八条の三にいう被相続人の療養看護に努めた者とはいえず、したがって、原則としては特別縁故者とは認められないが、対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽した場合には特別の事情がある場合に該当し、例外的に特別縁故者に該当すると解すべきことは前記3の申立人Aらについて述べたのと同様である。
これを本申立人についてみるに、前記イで認定したところによれば、申立人は二年以上もの間連日誠心誠意被相続人の看護に努め、その看護ぶり、看護態度および申立人の報酬額からみて、対価として得ていた報酬以上に被相続人の看護に尽力したものであるといえるのであって、したがって、申立人には前記特別の事情があるとみるのが相当である。
以上によれば、申立人は被相続人の特別縁故者に該当するというべきである。」
その他の特別縁故者
生計同一者や療養看護者以外に、民法では「その他被相続人と特別の縁故があった者」も特別縁故者になります。
ここに当てはまるかどうかは、諸要素を考慮しての判断になりますが、被相続人の意思がどのようなものか推認されることが多いでしょう。
被相続人に対して、財産的援助や精神的に支えていたような場合には、認定されやすいポイントになります。
自然人だけではなく、会社等の法人や地方公共団体も特別縁故者として認められることがあります。
神戸家審昭和51年4月24日。学校法人を特別縁故者と認めた裁判例です。
以上認定したところによれば、被相続人は昭和六年六月から死亡時まで約三七年間名実共に申立人学校の経営者ないし代表者としてその発展に大いに努力し、自己の私財を投じて申立人学校の財政的な基盤の確立に努める一方、積極的に申立人学校の指導理念や行事等にも関与し、また晩年には申立人学校に短期大学を設置する計画を有してその実現のため自ら校地の物色をする等情熱をもやしていたことが認められるのであって、これらの事実からみて、いかに被相続人が申立人学校のことを心にかけ、その発展を願っていたかは明らかであり、正に被相続人あっての申立人学校といえるのであり、したがって、この両者の関係から判断すれば、申立人学校は被相続人と特別縁故の関係にあるとみるのが相当である。
特別縁故者と遺言無効確認
特別縁故者は、その申立によって認められる可能性がある権利なので、被相続人の遺言がおかしいと思っても、遺言無効確認訴訟を起こすことはできないとされています。訴えの利益がないとされます。
最判平成6年10月13日。
本件遺言が無効である場合に、被上告人Xらか民法九五八条の三第一項所定の特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性があるとしても、右の特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎず、被上告人Xらは、右の審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではなく、本件遺言の無効確認を求める法律上の利益を有するとはいえない
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