よくある質問
Q.雇用主でも特別縁故者になれる?
事情によっては特別縁故者と認められます。
これが肯定された特別縁故者と元雇用主についての裁判例を紹介します。
大阪高等裁判所平成31年2月15日決定の紹介です。
動画での解説はこちら。
特別縁故者とは?
まず特別縁故者というのは何かというと、誰かが亡くなった際、相続人が誰もいないときに、一定の事情があると、財産をもらえる制度です。
もう少し詳しく説明をしていきましょう。
誰かが亡くなったというとき、通常であれば相続が発生します。
子や配偶者などの相続人に対して相続財産が移転します。
遺言があれば、相続人以外に財産が行きます。
これに対して、遺言もなく、相続人もいないこともあります。
もともと誰も相続人がいないケース、配偶者も子も兄弟姉妹もいない、親も死亡しているケースもあります。
また、相続人はいたものの、相続人が全員相続放棄をしたというケースでも、相続人は誰もいないことになります。
このような場合、相続は発生しません。
そうすると、相続財産が宙に浮いてしまいます。このような財産は、最終的には国に帰属します。
国庫に帰属するという言い方をします。
このような過程で特別縁故者と認められる人がいれば、国庫に帰属する前に財産の全部、一部を分与してもらえるのです。
これが特別縁故者の分与制度です。
特別縁故者と認められるには?
この制度は、相続人ではないけれども、近い親族など被相続人と特別の関係がある人をフォローする制度です。
法的に、相当と認められる場合として、
被相続人と生計を同じくしていたもの
被相続人の療養看護につとめたもの
その他、被相続人と特別の縁故があったもの
があげられています。
民法958条の3第1項
「前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」
生計同一には、内縁の夫婦や事実上の養子のような例があります。
実態は相続人だけど、戸籍上違うだけという場合です。
また、被相続人を療養看護していた場合、亡くなる前に色々と面倒を見ていた親族や知人なども認められることがあります。
元雇用主の申立は?
今回の事件では、この特別縁故者の申立が、元雇用主からされたという点が特徴です。
どういう事案だったのが、概要を見ていきましょう。
被相続人は、知的能力が十分でありませんでした。
妻と死別、子はなし、法定相続人はいませんでした。
申立人は、先代から家業(酒類等の販売)を引き継ぎました。
先代から、被相続人を雇用していました。
申立人は、昭和47年、家業を引き継ぎ、被相続人の雇用を継続。
平成12年12月末に経営不振を理由に解雇。このとき、被相続人は70歳。
それまでの間、給料以外に、食事の差し入れや風呂を提供するなどもしていました。
被相続人は、平成13年、脳出血等で倒れ、老人保健施設に入所。
入院や施設入所等の諸手続、見舞い、外出時の付き添いなどもしました。
これらのほか、預貯金を管理したり、不動産を管理し、賃料収入を得られるようにもしています。
この財産管理について、平成21年には、財産管理契約、任意後見契約も締結。
平成28年、任意後見監督人の選任を申し立て、選任されたものの、同年中に死亡。享年86歳。
死亡に伴う諸手続や通夜、葬儀等も対応しました。
相続財産(預金)は約4120万円。
家庭裁判所の判断
家庭裁判所は、生計を同じくしたり、療養看護ではないものの、生活全般を継続的に支援してきたことから特別の縁故関係があったと認定。
分与額については、800万円としました。
その際、被相続人が得ていた給与等は労働の対価であって、申立人らが支払っていたことは、分与額を検討するに際して考慮すべきではないとしました。
高等裁判所の判断
これに対し、高等裁判所の抗告審では、被相続人の知的能力が十分でなかったのに、高齢になるまで稼働能力に見合う以上の給料を支給し続けたと認定。
雇用の実態から、給料名目で支給された金額は、労働に対する対価に止まらず、それを超えた好意的な援助の部分が少なからず含まれるとしました。
被相続人が4000万円以上もの相続財産を形成し、これを維持できたのは、申立人による約28年間に及ぶ被相続人の稼働能力を超えた経済的援助と、死亡まで約16年間にわたる財産管理が続けられたことによるものだとしました。
これらの貢献は、親兄弟にも匹敵すると評価。
その安定した生活と死後縁故に尽くしたといえるから、これら縁故の期間や程度のほか相続財産の形成過程や金額など一切の事情を考慮すれば、分与すべき金額は、2000万円とするのが相当としました。
金額は2倍以上になっています。
金額に差が出たポイントは?
家庭裁判所では、過去の雇用時代についてはあまり評価されておらず、高裁ではここも評価されているのが金額に反映されています。
特別縁故者への分与額を決める基準について、文献等では、縁故関係の内容や程度、特別縁故者の性別、年齢、職業等の属性、相続財産の種類等の一切の事情を考慮して決めるとされます。相続財産管理人の意見も考慮されることになっていますが、管理人の意見とかけ離れた結論が出ることもあります。
実際には、裁判所の裁量で大きく変わります。
家庭裁判所と高等裁判所で金額が大きく変わることもあります。増えることもあれば減る事例もあります。
ホントに、匙加減だと感じてしまうことも多いです。
今回の高裁では、被相続人の知的能力が十分ではなかったのに、なぜこんなに預金できたのか?というところにフォーカスしてもらえました。これにより、金額が大幅に上がったものと思われます。
自己アピールできるところは、しっかりと主張、立証しないといけないのです。
特別縁故者事件については、相続財産管理人としての関与経験も豊富な、ジン法律事務所弁護士法人までご相談ください。